遺言書は「自筆」と「公正証書」どちらがいい?違いと選び方
「遺言書は書いておいたほうがいい」と聞いても、種類がいくつもあって、どれを選べばよいか迷う方は少なくありません。
この記事では、よく使われる3つの方法、自宅で保管する自筆証書遺言、法務局に預ける自筆証書遺言、公正証書遺言の違いと、選び方の目安をまとめます。(ほかに「秘密証書遺言」もありますが、利用は多くありません。)
- 手軽さを重視するなら自筆証書遺言、安心感を重視するなら公正証書遺言が向いています。
- 自筆の遺言書は、法務局に預ける制度を使うと、紛失の心配が減り、家庭裁判所の検認も要らなくなります。
- どの方法でも、書き方のルールと「遺留分」への配慮が大切です。
3つの方法の違い
| 自筆証書遺言 (自宅で保管) | 自筆証書遺言 (法務局で保管) | 公正証書遺言 | |
|---|---|---|---|
| 作り方 | 全文・日付・氏名を自分で書き、押印する | 同じ(法務局の様式のルールあり) | 公証人が作成する。内容は本人が伝える |
| 費用 | 手数料はかからない | 保管の申請手数料 3,900円(1件) | 財産の額などに応じた公証人の手数料 |
| 保管 | 自分で保管する | 法務局(遺言書保管所) | 原本は公証役場 |
| 家庭裁判所の検認 | 必要 | 不要 | 不要 |
| 証人 | 不要 | 不要 | 2人以上が必要 |
| 向いている人 | まず手軽に気持ちを形にしたい人 | 費用を抑えて安全に預けたい人 | 財産や家族関係が複雑な人、不備なく残したい人 |
自筆証書遺言のルール
自筆証書遺言は、紙とペンと印鑑があれば、いつでも作れます。そのぶん、法律で決められた書き方を守らないと無効になるおそれがあるのが、いちばんの落とし穴です。
- 全文・日付・氏名を自分で手書きし、押印します。パソコンで本文を作る、ほかの人に代わりに書いてもらう、といったことはできません。
- 日付は「何年何月何日」とはっきり分かるように書きます。「吉日」のようなあいまいな書き方は、無効になるおそれがあります。
- 財産目録だけは例外です。2019年1月13日から、目録はパソコンで作ったり、通帳や登記事項証明書のコピーを添付したりできるようになりました。ただし、目録のすべてのページに署名と押印が必要です。
- 書き間違えたときの訂正には、細かい決まりがあります。間違えたら、最初から書き直すほうが安全です。
自宅などで保管されていた自筆の遺言書は、亡くなった後に、家庭裁判所で「検認」という手続きを受ける必要があります。遺言書の偽造や変造を防ぐための手続きで、遺言が有効かどうかを判断する手続きではありません。
封印のある遺言書は、家庭裁判所で開封する決まりです。見つけたときは、自分で開けずに、そのまま家庭裁判所に提出してください。
法務局の保管制度でできること・できないこと
2020年7月10日から、自分で書いた遺言書を法務局(遺言書保管所)に預けられる制度が始まりました。申請の手数料は、1件につき3,900円です。
メリット
- 紛失や改ざん、見つけてもらえない、といった心配が減ります。
- この制度で預けた遺言書は、家庭裁判所の検認が不要です。
- 預ける保管所は、住所地・本籍地・所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する保管所から選べます。
注意したい点
- 申請は、遺言者ご本人が法務局に出向いて行う必要があります。入院中などで出向けない場合は、使いにくい制度です。
- 法務局が行うのは、日付・署名・押印といった形式の外形的な確認です。遺言の内容についての相談には応じてもらえず、有効性を保証するものでもありません。内容の整理は、別に行う必要があります。
公正証書遺言の特徴
公正証書遺言は、公証人が作成する遺言書です。作成には証人2人の立ち会いが必要で、原本は公証役場に保管されます。家庭裁判所の検認は不要です。
- 法律の専門家である公証人が関わるため、形式の不備で無効になる心配は小さくなります。
- 費用は、遺言に書く財産の価額などに応じて決まります。具体的な金額は、公証役場で確認できます。
- 証人になれないのは、未成年者、推定相続人、遺言で財産を受け取る人、そしてそれらの人の配偶者や直系の親族などです。ご家族には頼めないことが多いので、早めの準備が必要です。
- 準備する書類の例:印鑑登録証明書、戸籍謄本、不動産の登記事項証明書と固定資産評価証明書、預貯金通帳のコピーなど。案件によって異なります。
ただし、公正証書にすれば中身の相談が要らなくなる、というわけではありません。「誰に、何を、どう渡すか」という中身を整えることが、いちばん大切です。
選び方の目安
自筆証書遺言(できれば法務局保管)が向いているケース
- 財産が自宅と預貯金が中心で、内容がシンプル
- 相続人が少なく、ご家族の関係が円満
- まず費用を抑えて、気持ちを形にしておきたい
公正証書遺言が向いているケース
- 相続人どうしの関係に不安がある
- 相続人以外の方(お世話になった方、内縁の配偶者、団体など)に財産を渡したい
- 不動産が複数ある、事業や株式がある
- 病気などで手書きが難しい
迷ったときは、まず自筆で下書きを作って内容を整理し、そのうえで公正証書にする、という進め方もあります。
よくある失敗
- 形式の不備:日付がない、押印がない、パソコンで全文を作ってしまった。
- 財産の書き方があいまい:「自宅は長男に」だけでは、どの不動産か特定しにくくなります。不動産は登記事項証明書のとおりに、預貯金は金融機関名・支店名・口座の種類と番号まで、正確に書きます。
- 遺留分への配慮がない:兄弟姉妹以外の相続人には、遺言でも奪えない最低限の取り分「遺留分」があります。偏った内容にすると、亡くなった後のトラブルのもとになります。
- 遺言執行者を決めていない:遺言の内容を実際に実現する手続き(預貯金の解約や名義変更など)を担う人です。あらかじめ決めておくと、手続きが進めやすくなります。
- 書いたことを誰にも伝えていない:見つけてもらえなければ意味がありません。保管場所や、遺言書があることを、信頼できる方に伝えておきましょう。
- 内容が古くなる:財産やご家族の状況は変わります。遺言は書き直せます。内容が食い違うときは、原則として新しいものが優先されます。
行政書士にできること、他の専門家の役割
- 遺言に盛り込む内容の整理・ご相談
- 相続人・財産の調査、戸籍などの必要書類の収集
- 遺言書の文案作成のお手伝い
- 公正証書遺言の原案作成、公証役場との連絡・調整
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この記事は2026年9月時点の一般的な情報です。法律の改正や、ご家族の状況によって、最適な方法は変わります。具体的なご事情は、個別にご相談ください。
参考にした公的な情報:
・法務省「自筆証書遺言書保管制度 手数料」
・法務省「自筆証書遺言に関するルールが変わります」
・裁判所「遺言書の検認」
・日本公証人連合会「遺言」