認知症に備える3つの方法成年後見・任意後見・家族信託の違い
「親が認知症になったら、預貯金はどうなるのだろう」「自分が将来そうなったとき、家族に迷惑をかけたくない」。そうしたご相談を、よくいただきます。
ご本人の判断能力が不十分になると、預貯金の手続きや、不動産の売却、施設入所の契約など、ご本人の意思の確認が必要な手続きが、進められなくなることがあります。この記事では、そのときに備える3つの方法、法定後見、任意後見、家族信託の違いを整理します。
- すでに判断能力が不十分になっているときは、家庭裁判所に申し立てる「法定後見」になります。
- まだお元気なうちなら、ご自身で支援者を決めておける「任意後見」や、財産を家族に託す「家族信託」を選べます。
- 成年後見の制度は、2026年6月に法律が改正されました。まだ施行されておらず、この記事は現在のルールで書いています。
3つの方法の違い
※ 表は、左右に動かして見られます。
| 法定後見 | 任意後見 | 家族信託 | |
|---|---|---|---|
| 使える時期 | 判断能力が不十分になった後 | お元気なうちに契約し、判断能力が不十分になった後に始まる | お元気なうちに契約する |
| 支援者を決める人 | 家庭裁判所 | ご本人が、契約で決める | ご本人が、託す相手(受託者)を決める |
| 始め方 | 家庭裁判所に申し立てる | 公証人が作る公正証書で、契約を結ぶ | 信託契約を結ぶ |
| 主な費用 | 収入印紙800円と登記用2,600円、郵便切手。必要な場合は鑑定費用 | 公証人手数料13,000円、登記嘱託手数料1,600円、収入印紙2,600円など | 契約の内容によって異なる |
| 家庭裁判所のかかわり | 後見人を選び、報告を受ける | 任意後見監督人を選び、監督する | 基本的に、かかわらない |
| ご本人の契約の取消し | 一定の範囲でできる | できない | 仕組みが違う |
法定後見:判断能力が不十分になった後の制度
家庭裁判所に申し立てて、後見人などを選んでもらう制度です。申立てができるのは、ご本人、配偶者、四親等内の親族などです。申立先は、ご本人の住所地の家庭裁判所です。
知っておいていただきたい点が、3つあります。
- 後見人を決めるのは、家庭裁判所です。ご家族の希望どおりになるとは限りません。最高裁判所の統計(令和6年)では、成年後見人等に選ばれた人のうち、親族は約17%(7,077件)、親族以外は約83%(34,245件)でした。親族以外の内訳は、司法書士が11,875件、弁護士が8,794件、社会福祉士が6,873件です。
- いったん始まると、原則として、ご本人の能力が回復するか、亡くなるまで続きます。「遺産分割のために」と申し立てた場合でも、その手続きが終わったから、やめられるわけではありません。
- 後見人は、家庭裁判所に定期的に報告します。ご家族が後見人になっても、報告は必要です。
2026年6月に「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)が成立し、6月24日に公布されました。成年後見制度では、後見と保佐の制度を廃止して、補助の制度に一元化する見直しが決まっています。
施行は、公布から2年6か月を超えない範囲で、政令で定める日です。2026年10月の時点では、まだ施行されていません。この記事は、現在のルールで書いています。
任意後見:お元気なうちにできる備え
ご本人に十分な判断能力があるうちに、将来の支援者(任意後見人)と、任せる内容を、契約で決めておく制度です。契約は、必ず公正証書で結びます。
- 契約を結んだだけでは、効力は生じません。判断能力が不十分になった後、家庭裁判所が「任意後見監督人」を選んだ時から、任意後見人が、契約で決めた事務を始めます。
- 任意後見監督人は、任意後見人が契約どおりに働いているかを監督します。任意後見では、すべての場合に選ばれます。
- 任意後見人は、契約で決めた範囲で代理できます。ただし、ご本人が結んだ契約を取り消すことはできません。
- 費用は、公証人手数料13,000円、登記嘱託手数料1,600円、収入印紙2,600円が基本です。ほかに、書留郵便料、正本・謄本の発行手数料などがかかります。(日本公証人連合会の案内による。公証役場でご確認ください。)
注意したい点
- 契約は、判断能力があるうちにしか結べません。「そのうちに」と先延ばしにしないことが大切です。
- お元気だけれど体が不自由、という時期には、まだ任意後見は始まりません。この間の財産管理は、別に「財産管理等の委任契約」で備える方法があります。
- 亡くなった後の手続き(葬儀や、住まいの片づけなど)は、任意後見の範囲には含まれません。必要なら、別の契約で備えます。
家族信託:財産を家族に託す仕組み
ご自身の財産(不動産・預貯金など)を、信頼できるご家族に託し、あらかじめ決めた目的に沿って管理してもらう仕組みです。財産を託す人を委託者、託される人を受託者、財産から利益を受ける人を受益者といいます。
法務省は、2026年3月31日に信託制度のパンフレット「知って活用 信託制度」を公表しました。その中で、認知症などに備えた財産管理には、親族間で信託を利用することが有効だと述べています。ご本人の判断能力が下がった後も、信託の目的に沿って、財産を柔軟に活用できる点が特徴です。
注意したい点
- 受託者の責任は重いです。託された財産を、ご自身の財産と分けて管理し、善良な管理者の注意をもって事務を行います。
- 未成年者、成年被後見人、被保佐人、破産者は、受託者になれません。
- 不動産を信託するときは、信託の登記が必要です。登記をしないと、第三者に対して、その財産が信託財産だと主張できません。
- 家族信託は、財産の管理が中心の仕組みです。介護サービスや施設入所の契約を、ご本人に代わって結ぶことは、含まれません。
- 税金の扱いは、契約の内容によって変わります。
契約の内容の設計が、とても大切です。決めごとが不十分だと、いざというときに、うまく動かないおそれがあります。専門家と一緒に、じっくり詰めてください。
選び方の目安
任意後見が向いているケース
- まだお元気で、将来、誰に任せたいかが決まっている
- 後見人を、ご自身で選んでおきたい
家族信託が向いているケース
- 自宅や預貯金を、ご家族が柔軟に管理できるようにしておきたい
- 託せるご家族が、いらっしゃる
法定後見になるケース
- すでに判断能力が不十分で、ご本人が契約を結べない
- 備えをしないまま、認知症が進んでしまった
これらは、組み合わせて使うこともあります。ご家族の状況や、財産の中身によって、合う方法が変わります。
行政書士にできること、他の専門家の役割
- ご希望やご家族の状況の整理、3つの制度の違いのご説明
- 任意後見契約書、見守り契約書、財産管理等の委任契約書、死後事務の委任契約書の原案作成
- 公正証書にするための、公証役場との連絡・調整
- 家族信託の信託契約書の原案作成のお手伝い
家庭裁判所に出す後見の申立書の作成は司法書士や弁護士、不動産の信託登記は司法書士、税金のご相談は税理士、ご家族の間で争いがある場合は弁護士の分野です。ご状況に応じて、適切な専門家をご案内します。
「親のことが心配だけれど、何から手をつければいいか」という段階でも、大丈夫です。無料相談(初回約30分)で、状況を整理するところから一緒に考えます。
この記事は2026年10月時点の一般的な情報です。成年後見制度は、2026年6月の法律の改正により、今後変わります。ご家族の状況によって、最適な方法は異なります。具体的なご事情は、個別にご相談ください。
参考にした公的な情報:
・法務省「成年後見制度について(Q1〜Q2)」/法務省「任意後見制度について(Q16〜Q20)」
・裁判所「後見開始」
・最高裁判所「成年後見関係事件の概況(令和6年1月〜12月)」
・日本公証人連合会「任意後見契約公正証書を作成する費用」
・法務省「信託制度のパンフレットの公表について」
・法務省「民法等の一部を改正する法律(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」